坊主丸儲けという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
よく言われるのはお寺は税金を払わなくて良いからお賽銭やお布施を全部自分のポケットに入れボロ儲けしているというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
檀家から高額なお布施を貰い高級車に乗っているにもかかわらず、税金を払わなくても良いいうようなイメージから、度々不公平であるとかお寺にも課税すべきというような批判的な意見も多く出てきています。
実際のところはどうなのでしょうか。
お寺にも一定の税金はかかる
宗教法人に納税義務がないというイメージは話半分と言えるでしょう。
実際に宗教活動に関わる部分は寄付金とされ、利益が出ても法人税の対象とはなりません。
しかしながら、いかにお寺が公共性が高いく法人税の納付義務がない言っても、住職への給与にあたる部分や、税法で定められている34種類の収益事業に当たるものについては納税の義務があります。
住職といえどもお寺のお金を私的なことに自由に使える訳ではなく、宗教法人から給料を受け取ることになります。
給与所得と所得税
宗教法人としてお寺の運営を行っている場合は、住職であっても宗教法人から給与を受け取ることとなります。
その給与に対しては所得税が課税されます。一般企業と同様に源泉所得税を給与から差引き、毎月or半年に一度納付を行う必要があります。また、社会保険料の加入義務も発生しますので、一般会社員と同様に給与から天引きして支給をすることとなります。
当然として、住職家族の衣食住にかかる費用は宗教法人の経費に入れることは出来ませんし、場合によっては無償で住居などを僧侶などに貸し出している場合は、家賃相当分を給与課税されることもあります。
法人税法上の収益事業にあたるもの
宗教法人等の公益法人については、法人税法上の収益事業のみに課税がされます。
お寺に関する収益事業は以下の34種類の事業が揚げられています。
収益を目的とした事業についてはきちんと課税されることとなります。
収益事業と非収益事業は分けて計算する必要がある
上記のように、お寺には性質の違う2つの収入があることになり、その2つは分けて計算する必要があります。
当然ながら、収益事業を非課税のものと偽り計上していれば税務調査の際に指摘を受け修正申告をする必要があり、その際には過少申告加算税や延滞税などのペナルティを受けることとなります。
課税売上が1000万円を超えると消費税の課税事業者になる
お寺であっても収益事業の売上(課税売上)が1,000万円を超えると課税事業者となり消費税の納付義務が発生します。
消費税が課税される売上に対しては消費税の納税義務があり、その課税される売上に対応する課税仕入のみ控除することとなります。
この仕組みは一般の株式会社や個人事業主にも同じように適用される仕組みです。
法人税がかからないとはいえ、事業会社と比較して収益力は高くない
通常の事業を行っている株式会社等は法人税では、税引き前当期純利益の概ね30%程度が法人税として課税され、有形固定資産に対する償却資産税等も課税されます。
宗教法人と固定資産税とは
宗教法人法3条に規定されている「境内建物・境内地」は非課税とされているます。
一般の会社であれば償却資産税が課税される本社社屋や工場にあたるような有形資産部分に対して固定・償却資産税が課税されますが、宗教法人においては非課税とされています。
しかしながら、お寺は収入規模に対して過大な資産を持っていることが多く、収益事業を主体とする一般会社と同じような課税を行うと、収益力が小さい割に大きな土地や建物を持つ寺院には払うことが出来ない過大な税金となることは明白です。結果多くの寺院で固定資産税や償却資産税が払えずに土地や建物を手放さざるを得なくなり継続が難しくなるでしょう。そういった背景があっての優遇措置であると考えられます。
お寺における経費とは?
一般的なイメージでは、葬儀場に1人で来て、何も原価をかけることなく小一時間お経を読むだけで30万も50万もお布施を貰って帰るという、ぼろ儲けのイメージがありますね。
お寺における経費にはどのような物があるのでしょうか。
住職や従業員に対する給与
宗教法人に計上した収入の中から、住職やその家族、職員がいれば給与を支払います。
お寺には広い本堂や境内の庭などがあり、住職やその家族だけでは管理しきれないこともしばしばあります。
俗に言う寺男と言われる職員が常駐しており、お寺掃除や雑務を担うことで実質的にお寺の業務を行っています。
法具の費用
お坊さんが法要や葬儀で着ている袈裟がどのぐらいするかご存じでしょうか。
1着100万円なんてザラでであり、その他木魚やリンなど必要なも備品はたくさんあり、それらの購入にかかる費用も相当なものになります。
境内や庭の維持管理費
お寺には広い境内があることも多く、植木や参道の維持管理が必要になります。
多くの場合、植木屋さんや石材店にメンテナンスや補修を依頼しています。
境内には本堂や庫裏のほか、駐車場などもあることが多く、整備や補修をすると多額の費用がかかります。
寺院の建物の維持管理費
寺院にとって頭の痛い問題は本堂などの建物にもあります。
寺院は日本古来の伝統的な建築方法が用いられており、一般の住宅メーカーが対処できるようなものではありません。
建物自体が古いうえに、伝統的な技術を持つ宮大工と言われる職人が行う為、補修や立替えが出来る業者も多くない為非常に高額になります。
収入を積立てたり、檀家さんからの寄付を募ったりして計画的に維持管理を行う必行があります。
寺院には収入規模に対しいて過大といも言える建物や設備が存在しています。
それを住職やその家族だけで維持するだけの費用を稼ぎださなければならない状況を考えると、高いお布施を支払うことや税制の優遇を受けること必要なことではないかと思います。
再開発事業に参画し近代的な寺院に生まれ変わる事例も多い
近年、都心部においては駅前の再開発が活発に行われています。寺院の中には都心の一等地に大きな土地を所有していることも多くあります。境内の一部を再開発用地として提供し、莫大な資金を得て、そのお金で本堂や境内を近代的なものに建て替えるようなお寺も多くあります。
本堂や境内地が綺麗になり、墓地の区画整理を行うことで新たな墓地区画を新設することが出来、分譲することでさらなる収益を確保することも出来ます。
都心部に土地があり、ディベロッパーと言われる人たちと組むことで莫大な資金を得ることが可能です。
都心のお寺にとっては不動産を上手く使いこなせるかが今後の寺院経営を左右すると言っても過言ではないのではないでしょうか。
まとめ
お寺にとっての本業に対して法人税が課税がされません。
そこだけを切り取って、「坊主丸儲け」というイメージが先行してしまっています。
実際に非収益事業に関して法人税が課税されない為、利益を出して高級車が購入できているお寺だってたくさんあるでしょう。
しかしながら、一部の大きなお寺以外は住職とその家族ぐらいの家族経営程度の規模で経営をしているお寺がほとんどです。
少ない収入の中で建物を維持し、高額な法具を買う必要があります。
特に都心にあるようなお寺に至っては、土地や建物の価値がお寺の年間収入の何十倍になるようなお寺も少なくないでしょう。
そんな寺院に大して「普通」に課税をすれば事業継続はままならないと考えられます。
自由経済である現代の日本において、檀家さんに不誠実な対応をしていれば淘汰されるでしょうし、お寺の不動産の活用や、時代にニーズを捉えた戦略が取れていれば高い収益を上げているお寺だってたくさんあります。
また、住職を株主とする株式会社を作り、収益事業を行っている場合も多く見受けられます。
寺院の経営も多様化してきているのではないでしょうか。
今後は日本経済が人口減少の局面に入りますので、檀家は減り、お墓を建てずに永代供養墓を選ぶ人もますます増えていくと考えられます。
お寺にとっても檀家がどんどん減り、葬儀にもお金をかけなくなり、お寺の収入が減るのが目に見えています。
近年では住職を株主とする株式会社を作り、収益事業を行っている場合も多く見受けられます。
後継者不足と檀家の減少から、複数のお寺を護っている住職も少なくありません。
少子高齢化や人口減少の局面に入っていくこれからの日本においては、寺院といでども何もしなければ衰退の一途をたどっていくのは目に見えています。お寺ならではの事業で収益を上げて維持していく努力が必要な時代なのではないでしょうか。